財団法人対日貿易投資交流促進協会(ミプロ)
理事長 宮崎 修二(みやざき しゅうじ)
対内直接投資が雇用の創出、新たな製品やサービス、資本、新規技術、経営ノウハウなどをわが国にもたらすことにより、グローバル競争への対応力を向上させ、日本経済活性化の起爆剤となるであろうことは識者の論を待つまでもない。90年代に急増した対アジア(特に対中国)投資とのバランスを取るがごとく、日本の景気回復にも支えられ、この10年ほどの間に日本の対内直接投資は拡大し、2006年にはフローベースの海外直接投資は入超となった。これに伴い、ストックベースで見た対内投資残高も2001年から2006年の5年間に倍増し、本年に入っても引き続き増大傾向にある。
しかし、対内投資残高の絶対水準は、先進国の中でも依然最低レベルにある。2005年末では、米国が日本の28倍となっているのをはじめ、英国8.6倍、ドイツ6.7倍、フランス9.5倍、シンガポール1.8倍となっており、かろうじて韓国の0.87倍を上回る程度にとどまっている。一方、対内投資残高の対GDP比率は、日本が2.4%(2005年)にすぎないのに対し、米国が22.5%、英国40.9%、ドイツ25.0%、フランス47.4%、韓国11.7%、シンガポールに至っては159.1%となっている。そもそも東京23区と同じ広さで新潟県程度の人口を擁するシンガポールにおいては、GDP規模に比し、外国からの投資水準が高くなることは容易に理解できるので、それと比較するのはいかがかとは思う。しかし、それでもなお、日本の対内投資水準が、その経済力に比し、いかに低いかについて、われわれはあらためて認識する必要があるだろう。
また、対日投資の中身に着目すると、その8割はM&Aであり、グリーンフィールド投資は2割にとどまっている。業種別に見ると、日本企業を対象としたM&Aのうち、製造業は21.8%(2006年)となっているのに対し、金融業が53.8%、非製造業17.4%、商業7.0%となっている。一方、グリーンフィールド投資では、日本の得意分野である製造業が42.0%となっており、電機、化学、輸送機産業がトップを占めている。これらの投資元としては、北米が5割、欧州が3割を占めているのに対し、アジアからは2割にとどまっており、アジアが日本の対外投資の主要相手先となっていることとの非対称性がここでも目に付く。
さらに、進出地域別に見ると、関東甲信越地域にほぼ8割が集中しており、近畿、中部で15%と、著しい地域的偏りがあることが問題である。日本に進出した外国企業の意識調査(2005年内閣府)によれば、日本への投資の障害となっている事情として、「手続きが煩雑」「事業活動コストが高い」「規制が過大」「優良企業が多く競争が激しい」といった構造的要因を挙げる一方、「地域・市場に関する情報不足」「インセンティブが不足」「魅力的なパートナーや買収先がない」といった地域への立地優位性に関する問題点を挙げる企業が多い。前者はまさに政府が率先して規制緩和等へ取り組むことにより解決の方向性が見いだせる問題であるが、後者は投資受け入れ側の、すなわち地域の努力の多寡がものを言う要因である。
それでは、わが国の地域における対内投資受け入れには、どのような課題があるのだろうか。実際、地方自治体の多くは多大の労力と予算をつぎ込み、補助金や減税などのインセンティブを用意して外資系企業誘致に取り組んでいるが、大都市圏など一部地域を除けば思うように成果を挙げているとは言い難い状況にある。その原因の多くは、地域およびその産業・経済活動に対する外資系企業サイドの理解不足や、地域サイドからの投資受け入れに関する情報提供不足にあるのではないかと考えられる。コスト極小化にプライオリティを置く外資系企業からすると、大都市圏にその拠点をつくることにより、輸送・通信コストの低減を図ろうとするだろう。土地価格、人件費等のコストが割高なうえ、市場競争の厳しい日本への投資で失敗しないことが彼らの最大の関心事であるとすれば、事情のよく分からない地域に立地するよりも、大都市圏への進出の方がリスクが低いと考えるのは無理もないことかもしれない。
こうしたハンディを乗り越えて地域が外資系企業の立地を勝ち取るためには、何より地域の総合力を高め、それを外国企業にアピールしていくことが重要であろう。それにはまず地域が自らの経済活性化の文脈に外資系企業の投資をしっかり位置付けたうえで、それぞれの地域の産業セクターが外資系企業と協力していけるようなプログラムや、こうした協力をサポートしていく体制を作り、外国企業に積極的に情報提供していくことが必要である。場合によって、高度な研究人材の確保等の面で開発特区制度を活用するなどの仕掛けも必要であろう。
欧米で投資誘致に実績を挙げている例を見ても、地域におけるクラスター形成がそのキーとなっていることが多い。フィンランドのユバスキュラ地域において、ITや医療福祉関係の高度な産業集積が形成されている例をはじめ、フランスのイル・ド・フランス地域、英国のスコットランド地域など、多くの外国企業誘致に成功しているケースが見られる。翻ってわが国でも、TAMA(技術先進首都圏地域)などの地域クラスター活動や九州北部におけるLSI・自動車関連の集積の形成、神戸医療産業都市構想などの動きが見られ、こうした地域への外資系企業の参入も増加している。これらに共通するのは、外資系企業誘致への強力なインセンティブ、インフラの整備、そして進出企業を支える地域の産業集積である。