日本の地方への台湾企業の対日投資が進まない最大の理由は、台湾企業側に「東京」周辺の情報しかなく、地方という選択肢がないということであろう。東京に次ぐ大都市である大阪も、自治体関係者によると、外国からの直接投資はハードルが高く、2次投資を狙って在京外国企業へのアプローチを行っているとのことである。大阪でその状況であればその他地方都市への外資系企業の投資誘致はまだまだ難しいのが現状であろう。まず、台湾企業に地方への投資に目を向けてもらうために最も有効なのは、自治体の投資誘致 PRセミナーなどを通じて台湾企業にその土地の良さを知ってもらうことであろう。
一方で、地方自治体側も台湾企業の情報入手が困難であり、台湾企業の対日投資可能性判断が難しい状況である。当協会や台湾の貿易経済団体を積極的に活用しながら、台湾企業の対日投資意識やニーズに対する情報収集を行い、地場企業とのマッチング機会を創造し、日台企業の交流頻度を深めることが遠回りのようで早道である。
また台湾企業の対日投資意識(*6)として、「日本は企業のオペレーションコストが高い」ことが挙げられているが、そもそも企業側に東京以外の情報がないことから最初からコスト比較の検討をしないケースが多いため、もし東京とのコスト比較から地方投資の優位性を明らかにできれば、台湾企業が地方に目を向ける一つのきっかけとなると思われる。
台湾企業は一度その土地に投資をすれば、できる限り長期的にビジネスに取り組む傾向を持つ数少ない外国企業であり、日本企業にとっては信頼に値するパートナーになりうる。2002年以前の台湾企業による主要な対日直接投資に挙げられた12件の買収案件のうち、売却・撤退した案件は3件であり、このことからも台湾企業の対日投資が長期的視野で行われていることがうかがえよう(*7)。
台湾企業側の対日投資のメリットとして、日本市場参入による利益増加と自社技術の高度化が挙げられる。前述した希華晶體科技のケースでは対日投資により、日本企業の高い技術力を取得するとともに、日本に拠点を持つことにより同社の大口顧客である日本企業との貿易取引や為替決裁が容易となり、業務効率が向上した。また、日本に立地する強みを生かして、日本での新規顧客獲得や販路拡大が進み、さらに韓国企業との取引もしやすくなったという利点も挙げている。また、京元電子のケースでは、アルデート買収後半年足らずで、既に対日投資による営業外利益が期待され、今年から子会社のアルデートから利益配当を獲得できると発表した(*8)。アルデートの LSIテスティングのソリューションソフト「テストプログラム自動生成ツール」の開発・販売が好調であるため、アルデートを通して京元電子が日本の顧客から受注する効果も生み出している。
一方、対日投資のデメリットとしては、市場アクセスの困難さと法規制・会計制度の煩雑さが挙げられる。日本語が堪能な台湾人社長が日本の税法や会計処理を説明しても台湾本社が納得しないケースも多くある。前述の日本エイサー詹社長によると、日本で家電製品の販売会社として一番の問題として、家電の輸入販売時の法規や管理事項の煩雑さを挙げた。例えば、家電リサイクル法制定後の中古家電処理等におけるメーカー負担が重くなり、また顧客へのコスト転嫁も難しく利益が出し難くなってきている。また、モデルチェンジの際にその都度証明書を出す必要があり、書類や手続き等の煩雑さは、外資系企業にとっての対日投資障壁となりうる。
当協会開催の対日投資コンサルティングセミナーにおいても、対日投資を希望する台湾企業の求めにより個別での会社設立・税務相談を行ってきたが、台湾企業の反応として、日本国内の税率の高さ(法人税・地方税その他)に驚き、日本でのビジネスモデルや収益モデルを再検討するケースが多い。対日投資サポート経験の豊富な大手監査法人マネージャーによればこうした悩みは台湾企業によくあるパターンという。主な内容は下記が挙げられる。
法人税・住民税・事業税の税率、株式会社・支店・駐在事務所の違い、外形標準課税(支店の場合、台湾親会社が一億円以上だと外形標準課税が課税される)、移転価格税制等の相談が多い。また台湾企業と日本企業の税体系の違いがネックとなって、対日投資に踏み切れないケースも多く存在する。そのため、日本市場で収益が出るモデルを考える必要があり、対日投資の成功事例は大半が日本の市場特性を生かしたビジネスモデルで収益を上げている。
日台間に租税条約がないため、台湾企業は自社の駐在員の日本での課税対応に頭を痛めている。台湾で税金を払いながら日本でも課税を追及されるというケースもあり、台湾の納税証明の提出によって免税となるが、特に地方の税務署では認識されていない場合が多い。
実際、日本での会社設立時には、最低日本での居住者が一人必要となっているが、それが特に外資系中小企業スタートアップ時の一つの障壁になっていることが多い。最近鹿児島県に設立された台湾企業に投資の理由を聞いてみると、「発起人が鹿児島にいたため、鹿児島県での設立となった。」という至ってシンプルなものであった。
実はこうした傾向は、台湾企業に特に顕著に見られる。事業を行う際に何よりも「信頼」や「縁(地縁・血縁を中心とした)」を重んじる台湾人は、自分に知見のない地方都市に単独投資を行う確率はほとんどないためだ。