財団法人対日貿易投資交流促進協会
対日投資支援課 吉岡 映子
政府が「対日直接投資残高GDP比5% 程度」の目標を掲げた2010年に入ったが、近年外国企業の目はもっぱら市場拡大の期待できる新興国に向かっている。カントリーリスクの低さや技術力だけでは外国企業・資本を呼び込みにくくなっている今、日本にできることは何かを検討する中で浮かび上がってきたのが、情報発信の問題である。既に日本に進出している企業の14.2%がビジネス上の阻害要因として情報不足を挙げている(ジェトロ「第13回対日直接投資に関する外資系企業の意識調査」より)。そこでミプロでは2009年12月及び2010年1月の2回にわたり、対日進出支援やコミュニケーションの専門家を招き、広報戦略をテーマに対日投資支援セミナーを行った。

目覚しい経済発展を遂げたとはいえ、欧米諸国をはじめ世界の人々の目に映る日本は「まことに小さな国」(司馬遼太郎「坂の上の雲」)であることに変わりはない。さらに地方自治体、その中の工業団地となれば地理的な位置、特性という基本情報から正確に伝えなければならないのは言うまでもない。多くの自治体がその基本データを各ウェブサイトに載せているが、それを見て直感的にその地方の魅力を把握できるだろうか。第1回セミナーに登壇頂いたアクセンチュア株式会社の榎原講師によると、選ばれるための「差」は他者を蹴落とす位でないと見えないという。
商品ブランドの選択と違い、企業がその地域を選ぶ際には、繰り返しの選択ができない。他地域との顕著な違いを具体的数字で客観的に示し、信頼感を得なければならない。企業誘致は営業、それも不特定多数を対象にした大衆商品の営業ではなく、オーダーメイドの高級品の営業に近い。ありきたりの広報ではなく、その企業向けにカスタマイズされた突っ込んだデータを使った提案型の情報でなければ判断の材料にならない。そのためにはターゲットを絞る必要がある。一口にIT産業と言っても、ハード、ソフトがあり、ソフトの中もアプリケーション、システム開発、情報基盤等に細分化される。自治体自身が何を提供できるかと企業のニーズとをつき合わせて見極めることが肝要であろう。

同じく第1回セミナーで講演頂いた、フランス企業の対日投資を支援しているユビフランスによれば、上記のように自治体の強みをアピールするにあたり忘れがちなのが、環境規制に関する情報だと言う。首相が「温室効果ガス25%減」を明言した日本での環境規制は外資企業にとっては気になるところであろう。水質、大気汚染、産業廃棄物、排水に関する国レベル、地方レベルの規制についての情報はしっかり発信したい。

自治体が認識している地域の姿と外から見た姿にはギャップがあり、さらに現実との間にも乖離があるというのが、長年、日欧企業の海外進出に携わってきたコンサルタント、ジャン・バルテルミー講師の第2回セミナーでの意見である。このパーセプション・ギャップをいかに埋めるかを考えた時に有用なのが、第三者の活用である。上記ユビフランスのような支援機関やコンサルタントの利用の他に、雑誌や新聞の現地記者に積極的にアプローチして、既に進出している企業のサクセスストーリーを紹介してもらう等の手法が効果的である。第三者の情報は受け手から見れば客観的で、説得力があるからである。

インターネットの普及により、消費者(ここでは進出企業)の意思決定パターンが変化していることに対応すべき、というのが、異文化コミュニケーションの専門家、十文字学園女子大学の福岡講師である。消費者の意思決定プロセスは、これまでのAIDMA(Attention→Interest→Desire→Memory→Action)からAISAS(Attention→Interest→Search→Action→Share)に変わってきているという。ネット上でAttention、Interest、SearchされてからActionに至らしめるような魅力的なWebサイトが必要である。
必要な情報が見つからなければ5秒で次のページへ移動してしまうユーザーの行動パターンに対応し、また異文化の好みに合わせたレイアウトにまで気を配ることは難しいかもしれないが、インターネット先進国のアメリカの自治体のサイト等を参考に情報展開の方法を学びたいところだ。広報専門の担当者を置けない自治体の現状があると思うが、「誘致担当者は市場情報に敏感なマーケッターとして、『伝える』から『動かす』仕掛けのプロになって欲しい」と福岡氏は述べている。
1月24日放送のNHKスペシャルで世界最強と言われたMade in Japanブランド崩壊の危機を突きつけられ、日本の将来に不安を抱かずにいられない方も多かったのではないだろうか。かつて欧米諸国が外資誘致で産業の活性化を図ったように、日本の将来の経済基盤を強化するために大きな効果の期待できる外資を積極的に呼び込む努力をすべきであろう。ミプロでも微力ながらそのお手伝いができればと模索している。
(2010年2月)