財団法人対日貿易投資交流促進協会
知的財産等対策室 主任調査研究員 棚澤 葉子
ミプロでは商品を日本に輸入して販売するビジネスを始めようとする方に、法的規制や必要な手続きなどに関する情報提供を行っています。中でも知的財産権を侵害するリスクについてご説明する際には「並行輸入」にも触れる必要があります。そして「並行輸入」については知的財産権の保護や自由競争の維持、消費者保護など考慮すべきいろいろな観点がある中で、裁判所の判断を仰ぐケースも少なくありません。今回は並行輸入品にいちばん係わりの深い知的財産権であろう「商標権」に関して裁判所が並行輸入に対し、これまでどのような判断を示してきたかについてお話しようと思います。
商標法では、「商標権者は登録の際指定した商品または役務(サービス)について登録商標の使用をする権利を専有する」、と規定しています。そして「使用とは次に掲げる行為」として「商品または商品の包装に標章を付したものを輸入し」と定義づけていますので、権利者に許諾を得ずに登録商標を付した指定商品と同一の商品を輸入することは権利を侵害する行為と考えられます。ですから税関では昭和47年まで実務上並行輸入を禁止していました。
昭和45年にパーカー社製万年筆の並行輸入について、大阪地裁では商標の機能を害するかどうかに着目して「原告(並行輸入者)は形式的には本件登録商標につきなんらの使用の権限を有しないが、同人のなす本件真正パーカー製品の輸入販売の行為は商標制度の本質に照らし実質的には違法性を欠き、権利侵害とはいえない」と判決で示しました。税関ではこの「パーカー事件」判決後、昭和47年に商標権にかかる真正商品について「一定要件を満たす場合並行輸入は商標権の侵害とはならない」旨通達を出し、並行輸入となる商品の輸入を認めることになりました。
■主な商標の機能
・出所表示機能: 商品または役務の出所を表示する機能
・品質保証機能: 同一の商標が付された商品または役務の品質は同一であるとする需要者の期待を保証する機能
その後いくつかの地方裁判所の裁判例が積み重ねられた上で、平成15年にはフレッドペリー事件において最高裁が次の3つの要件を満たした場合の並行輸入には違法性はない、とする判断を示しました。
■並行輸入が許される具体的な要件
1.適法に商標が付された真正商品であること
2.当該商品の外国商標権者と国内商標権者とが同一人であること、あるいは法律的、経済的に同一視できる関係にあること
3.当該商品が国内商標権利者の提供する商品との間に品質において差異がないと評価されること
現在商標権にかかる並行輸入に違法性があるかどうかについて検討する場合、この3要件へのあてはめが試みられることでしょう。まず要件1の「真正商品であること」を確認すること自体、商品の輸入販売者にとって大きな問題であることは先回も申し上げました。多くの判決文において小売業者等には、並行輸入にはリスクがあることを前提として真正商品の輸入について最善の努力をすることが求められています。必要な注意義務を果たさず、不正商品を取扱ったと判断されれば差止めのみならず損害賠償を負うことがあります。
また、商標の出所表示機能を保全するための要件2が品質の同一性を保証する要件3に関係することもあります。例えばフレッドペリー事件では「品質に差異がない」という前提に「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にある」ことが挙げられています。そして、外国商標権者と国内商標権者とが同一人あるいは同視できるとみなされなければ、日本の権利者が間接的にでも当該並行輸入品の品質管理を行う立場にある、とはいえない、ということです。
内外権利者の同一人性、品質の実質的な同一性についてガイドラインがあるわけではありません。個々の争いにおいて裁判所がどのような考え方を示したのかを知ることは参考になります※。そして裁判例にいくつか触れているうちに、商標権の保護には消費者等需要者の保護という独特な視点があることを実感します。消費者等のために商標機能が損なわれていないか、という視点を持つことの重要性はリスクを測る上で少なくないと思われます。商標を保護することにより商標の使用をするもの(つまり権利者ですね)の業務上の信用の維持を図り、あわせて需要者(つまり消費者等購入者ですね)の利益を保護すること、それが商標法の目的であることに何度となく触れられているからです。
※地方裁判所と最高裁判所との判決はその重みが事実上異なることに留意は必要です。