
知的財産権の相談先として「弁理士」という言葉を耳にしますが、一体どのような仕事をしている方なのでしょうか。
今回は、「LIL国際特許商標事務所の所長、藤田和子さん」にお話を聞いてきました。
藤田さんは弁理士の資格を持ち、日ごろ国内外の企業からの商標に関する問い合わせに応じているほか、企業の商標実務をわかりやすく解説した実用書の執筆もされています。
藤田氏:
「弁理士」とは一言でいいますと、知的財産の専門家です。
知的財産について権利の取得や権利をめぐる紛争等において法律で定められた様々な手続を、その権利者の立場に立って行っています。
この知的財産権のうち歴史的に特許庁が扱ってきた4つの権利、つまり特許権、実用新案権、意匠権、商標権を産業財産権といいますが、これに関する手続きのすべてを特許庁に対して権利者に代わって行うことができる、国家資格を持っています。
藤田氏:
結構いらっしゃいますよ。私の事務所にもよくあるお問い合わせです。
時々、大量に商品を仕入れてしまった後に問い合わせをいただくケースがありますが、「商品を仕入れる前に調査をする」ということが、リスクを最小に留める上でとても重要なことだと思います。
たとえば、すでにその商品の名称について他人が商標権を取得してしまっている場合、権利者の許可なくその名称を使って販売するということは原則としてできません。このため、せっかく商品を仕入れても、その名称が付されている商品を売ることは他人の商標を使っている、すなわち、その他人の商標権の侵害行為となってしまうため、そのままでは売れない、ということになります。
商標権の侵害に対しては損害賠償の請求がなされたり、懲役といった刑事上の罰則の対象となるので、注意が必要です。
藤田氏:
お問い合わせしていただく前にしておくべきことというのは特にありませんが、まずはお使いになりたい商標は何か、そしてその商標をどのような商品あるいはサービスに使いたいのか、ということは明らかにしておいていただけると話がスムーズにすすみます。それを基に弁理士は商標調査というものを行い、その商標が誰かに権利を取られているのかどうかということをすぐに調べることができるからです。
ただ、商標調査を弁理士に依頼するとそのための費用が発生してしまうのが一般的ですので、特許庁のHPにある「特許電子図書館(IPDL)」を利用し、日本国内にその商標に関する権利者がいるかどうかをご自身で調べられる方も多いです。このIPDLの使い方は特許庁のHP上でも説明されていますので、これらを利用して使い方を習得し、気になったらすぐに調べる、ということができるようにしておくと便利かと思います。
このほか、通常のインターネットの検索で、「商標」という言葉と扱いたい商品名を入れるだけでも結構情報が得られる場合があります。これは、商標権を持っている人は、そのことを示すために「登録商標〇〇」と商品に付したり、「〇〇は□□社の登録商標です」といったことを明らかにしている場合が多く、これらがヒットすることがあるからです(ちなみに権利取得していないものについて登録商標と表示することは虚偽表示にあたり、刑事罰の対象になっています)

藤田氏:
そのような場合は購入元である海外の会社(基本的には本社と購入売買契約をかわしている会社)とご相談の上、できるだけ早く商標権の出願をすることが望ましいといえます。
商標権の取得は「早い者勝ち」ですので、誰かに取られる前に自分で取ってしまえば(あるいは海外の会社に取ってもらい、使用する権利を設定してもらえば)、安心してその商品を取り扱えることになります。
藤田氏:
弁理士は先にもお話しましたように特許庁への手続きを専権的にできるので、特許庁への申請から権利が取れるまでのすべての手続きを依頼することができます。この申請前に、申請に値する商標かどうかの登録の可能性についての調査も依頼できますし、必要であれば海外の権利者を調べ、ご依頼に応じて交渉したり、海外への出願の依頼をすることも可能です。
ただ弁理士といっても数も多いので、商標を専門とし、ある程度経験のある弁理士にお願いするほうが安心しておまかせできるかと思います。例えばインターネットで「弁理士ナビ」というものを利用することにより、各弁理士の専門分野を確認することもできます。
また、海外の出願にあたっては、その弁理士が現地の弁理士や弁護士とどれくらい強いネットワークを持っているか、という面も重要になります。海外の出願は基本的には現地の弁理士等に依頼することになりますので、現地とのやり取りにあまりなれていない場合には翻訳が不十分だったり、現地代理人とのやりとりに時間が多くかかった結果、タイムチャージ制がほとんどの海外の代理人から高額な費用が請求されてしまう場合もあるからです。
この点、最初の相談は無料という弁理士事務所(特許事務所)も多いので、これらのことを複数の弁理士に訊いて、その対応を見た上で依頼先を決めるのも一つの方法といえます。
藤田氏:
この場合、その権利者が持っている商標権は、ご自身が使いたいと思っている商品やサービスについてか、あるいはそれに類似するものについてなのか、まずはもう一度確認していただけるとよいかと思います。
商標権は同一の商品(サービス)、あるいは類似する商品(サービス)について使用していなければ問題はありません。この点、まったく異なる商品に使用しているのにもかかわらず、自分では使えない、と誤解してしまう方が結構いらっしゃいます。
また、「並行輸入」という海外品の輸入ルートがあります。これは、輸入販売に関する正式契約を結んでいない第三者が輸入販売するルートで、一般的には正規代理店ルートよりも安く商品を購入することができます。この並行輸入は商品自体が正規なものでなければもちろん商標権侵害、ということになってしまうのですが、偽造品とは知らずに売りつけられてしまった個人輸入代行者がそれを販売する行為などをしたため、意図せずして商標権侵害を行ってしまうことが近年問題となっています。
このようなことに巻き込まれ、警察に被害届を出す方も少なくないようです。もしそのようなことになった場合には自分も被害者であることを示す証拠をできるだけ残しておくことが重要ですが、やはりこのようなことが起こらないようにすることが一番です。
インターネットが普及して海外からの購入が誰でも容易にできるようになったため、犯罪とは無縁のはずの主婦の方などが犯罪者になっているケースも多く、深刻な問題となっています。購入のときには必ずそれが真正品であるのか、十分な注意することが必要となってきます。
藤田氏:
権利者が登録後3年以上その商標を使用していない商品やサービスである等、一定の条件がそろえば商標登録の取り消しを請求することができます。
また、権利者に交渉して、権利を譲渡してもらったり、使わせてもらう(ライセンス契約)といった方法もあります。このような手続きも弁理士に依頼することができます。
なお、本国の権利者と代理店契約をした方や日本支社の方が、本国の本社から「本国で権利が取れているのだから日本でも自由に使えるはずだ」とか、「日本でも絶対に権利が取れるはずだ」あるいは「すでに権利が取れているはずだ」と言われた、といって相談にいらっしゃることがあります。しかしながら、日本の商標法は「属地主義」というものを採用しており、よその国で権利が取れているからといって、それが日本の商標権取得に直接つながっていることはありません。
それぞれの国によって法律が違うので、必ずしも日本で権利が取得できるとは限らないのです。
藤田氏:
よく分からないから放置してしまう、というのは絶対に避けていただきたいと思います。
たとえば内容証明郵便で送られてきた警告書を受け取ってしまった場合、これを無視してそのままその商標の使用を継続した場合は、「注意喚起をしたにもかかわらず商標権侵害行為を止めなかった」、つまり「故意(悪意)があった」と見なされ、刑事責任を問われてしまう事態にもなりかねません。
一方、過剰に反応しすぎるのも問題です。内容を吟味してみると、実は権利侵害をしているとは言えないケースも少なくなく、その場合にはその旨を警告者に説明することにより、何事もなく終わるケースもあるのです。あせって商品名や店名を変えてしまう、なんてことをしてしまった場合には、ビジネス的にも金銭的にも不要なダメージを受けてしまうことになるでしょう。
ですから、警告書が送られてきたとしても自己判断せず、すぐに弁理士などの専門家にご相談していただくほうがよいかと思います。
藤田氏:
日本では商標権侵害のリスクについて、まだ意識が高いとは言えない状態にあると思います。さきほども述べましたように、インターネットが普及してからだれでも簡単に商品の輸入ができるため、知らずに商標権侵害行為をしてしまっていたということが本当に増えてきたように思います。商品の輸入・販売に関してはその商品の特性に応じて様々な法規制がありますが、その一つとして知的財産に関する法律も意識していただければと思います。
せっかく「売れる」と見込んだ商品に出合えたのですから、商標権についても情報収集を怠らず、安心して販売していただくのが一番だと思います。
また、ネットショップをお考えの方も多いと思いますが、昨今はプロバイダ各社も権利侵害品に対する対応には積極的な姿勢で臨む傾向にあります。このため、ショップ立ち上げ時の契約書には、知的財産権侵害に関し出店者の責任等について記載されていることもあるかと思います。ですから、こうした書面も細部までしっかりと読んでいただき、もし不安やわからないことがあったときには専門家に相談するなどしてわからないままにしておくことだけは避けていただきたいと思います。
ミプロ:
インターネットの普及を背景に、最近ではネットショップで気軽に海外の商品を仕入れ、販売しようとする人が増えていますが、最後のお話のように、せっかく見つけた売れ筋候補の商品ならば、リスクヘッジもしっかり考えた上で、安心して販売を始めたいものですね。
本日は貴重な情報をたくさんいただき、どうもありがとうございました。